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.  コヨリは、カーステレオのスイッチを切り、エアコンの設定温度を2度下げた。その方が、ガソリンが長持ちすると考えたから。一番近いガソリンスタンドをナビで検索したが、ここから20km以上離れている。  そうしているうちに体が冷えてきた。コヨリは、スーツケースから厚手のジャケットを2枚取り出して重ね着した。それでも体の芯が冷えてくる。追い討ちをかけるように、外では激しい風が吹き始め車を揺すった。最悪と思ったそのとき、自動車の運転席側のドアガラスが2度ノックされた。  コヨリはガラスのくもりを手袋をはめた手で拭う。外にいる人も、ガラスにこびり付いた雪を拭い落とした。2人の視線が合った。外にいるのは若い男性。まだ20代だろうか。白いダウンジャケットを着て眼鏡をかけている。  「ドアの鍵、開けていただけませんか?」  男性の声が、ガラス越しに聞こえる。コヨリは、混乱に便乗した盗人とか変質者だったらどうしようと不安になったので、「やめてください」と断った。すると男性は、紙に文字を書いてドアガラス越しに私に見せた。紙にはこう書かれていた。  『ぼくは変な奴じゃありません。後ろの車から来ました。ガソリン心配でしょ? 2人で協力して乗り切りませんか?』 .
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