髪飾り

1/5
10人が本棚に入れています
本棚に追加
/5ページ

髪飾り

 まばらな拍手に送られて道化師たちが引き上げると、タキシード姿の団長が二人の出番を告げた。 「さて、みなさん!続いてお送りいたしますのは、はらはらどきどき、ロシアからはるばるやってきた二人組、世紀の美女ドリスとナイフ投げのマエストロ、ボリスです!盛大な拍手を!」  客席からは大きな歓声と拍手が鳴り響いた。ドリスは白い鳥の羽をつけた大きな髪飾りを付け、肌を広く露出した革のスーツ、美しい笑顔と軽やかな足取りで登場した。一方ボリスはシルクハットに黒マント、ゆっくりと、ほとんど辺りを睨み付けながら舞台の中央に進み出た。シルクハットをとり、マントを翻しながら脱ぎ捨て、神秘的な雰囲気を演出した。  客席の少年は、初めてデートに誘った少女の耳元でつぶやいた。 「ドリスがあんなに大きな髪飾りを付けてる理由、知ってる?」 少女は首を横に振って彼を見つめた。 「ボリスは職人気質で自信家だから、いつもドリスの顔ぎりぎりにナイフを投げるんだって。だから、あのきれいな顔に傷がつかないか、いつも団長はひやひや。あんまり心臓に悪いから髪飾りをかぶせて、ぎりぎりに投げないようにしたらしいよ」 「ふうん、きれいな人だものね」 少年がガールフレンド以外の女性を「きれい」と言ってしまったのは明らかに失敗だった。    
/5ページ

最初のコメントを投稿しよう!