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髪飾り
まばらな拍手に送られて道化師たちが引き上げると、タキシード姿の団長が二人の出番を告げた。
「さて、みなさん!続いてお送りいたしますのは、はらはらどきどき、ロシアからはるばるやってきた二人組、世紀の美女ドリスとナイフ投げのマエストロ、ボリスです!盛大な拍手を!」
客席からは大きな歓声と拍手が鳴り響いた。ドリスは白い鳥の羽をつけた大きな髪飾りを付け、肌を広く露出した革のスーツ、美しい笑顔と軽やかな足取りで登場した。一方ボリスはシルクハットに黒マント、ゆっくりと、ほとんど辺りを睨み付けながら舞台の中央に進み出た。シルクハットをとり、マントを翻しながら脱ぎ捨て、神秘的な雰囲気を演出した。
客席の少年は、初めてデートに誘った少女の耳元でつぶやいた。
「ドリスがあんなに大きな髪飾りを付けてる理由、知ってる?」
少女は首を横に振って彼を見つめた。
「ボリスは職人気質で自信家だから、いつもドリスの顔ぎりぎりにナイフを投げるんだって。だから、あのきれいな顔に傷がつかないか、いつも団長はひやひや。あんまり心臓に悪いから髪飾りをかぶせて、ぎりぎりに投げないようにしたらしいよ」
「ふうん、きれいな人だものね」
少年がガールフレンド以外の女性を「きれい」と言ってしまったのは明らかに失敗だった。
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