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朝の静けさの中に、目覚まし時計の音が鳴り響いた。
頭に少し響く甲高い電子音。
しばらくベッドヘッドの棚で、けたたましい音をさせていた、その目覚まし時計は、のそりと布団から伸びてきた手に、上部のボタンを叩かれその音を止めた。
しかし時計の音を止めた手は、身体を起こすことなくするりと、また布団の中へ戻っていく。すると時計が秒針を刻む小さな音と、窓の外から聞こえてくる小さな雨音だけが響く、静けさが室内に舞い戻ってきた。
しんとした十畳のワンルーム――そこはアイボリーのコンパクトソファに、天板がガラスのローテーブル、壁際に設置された大型テレビ。
ベッドとリビングスペースを仕切る、天井までの収納棚のみ、といった必要最低限な空間だった。
周りに少しばかりある細かな小物も、無駄なく整頓されていて、部屋の主がとても丁寧な性格をしていることがわかる。
けれどそんな主は、寝覚めがあまりよくないようで、時計が鳴り止みそのまま時間は五分進み、再び部屋の中に目覚まし時計の音が鳴り響く。
そしてそれと同時か、枕元で携帯電話のアラームも鳴り出した。さすがに音が二つも鳴り出すと、黙って寝ていられなくなったようで、盛り上がった布団がもぞりと動く。
「……ん」
その中から聞こえてきた声は、鳴り響く音に不満げだった。
けれどいつまでも、布団を被っていられないことも承知しているようで、伸ばした腕で目覚まし時計を掴み、裏側にあるスイッチをオフにする。
続けて携帯電話を掴むと、充電コードを抜き去り、こちらの目覚ましアラームも止めた。
そしてようやく起きる気になったのか、小さな唸り声と共にベッドに腕をついて、身体をゆっくりと持ち上げる。
すると布団やタオルケットが、頭や肩から滑り落ち、柔らかなこげ茶色の髪と血色のいい肌があらわになった。
「雨、降ってる」
小さな雨音に気がついたのか、部屋の主である喜多蒼二は、すぐ傍にあったカーテンの端を掴みそれを横に引いた。
暗かった室内に少しばかり明るさが広がる。
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