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けれどそこに現れた窓は水滴に濡らされている。
今しがた起きたばかりの蒼二にも、雨が随分と長く降っていたことを、容易に想像させた。
空の様子を覗いて、蒼二が窓の向こうを見上げれば、そこはどんよりとした暗い雨雲が空を覆っている。
「昨日は曇りって天気予報が言ってたのにな」
重たいため息を吐き出しながら、蒼二は身体を滑らしベッドから抜け出た。適度な筋肉がついたしなやかな彼の身体には、黒いボクサーパンツしか身につけられておらず、惜しみなく綺麗な身体のラインが晒された。
六月も半ばで寒さはないが、まだそれほど暑くもない季節。しかし蒼二の寝起きは一年中、ほぼこのスタイルで変わりがない。
この部屋は機密性が高いので、室温が大きく上がったり下がったりということがなく、夏は冷房、冬は暖房をつければすぐに快適になる。
そのため寝間着を身につけるのが、好きではない蒼二のスタイルも、ごく自然とこうなった。
「雨かぁ、まあ梅雨だけどさ」
洗面台の前に立ち、歯ブラシをくわえながらも、ため息が止まらないのか、蒼二の形のいい眉がひそめられている。鏡に映る彼の優しげな顔立ちは、気持ちの重たさがありありとわかる、ひどく浮かない表情だ。
少しばかり寝癖で跳ねた髪を直し、クローゼットから取り出したアイロン掛けが綺麗にされた、ストライプの白いシャツを羽織る。
身支度を調えている最中も、まったく眉間に刻まれたしわが取れない。けれどそんな曇り空にも似た、憂鬱そうな顔で蒼二が部屋の中を歩いていると、ベッドの上に置いたままの携帯電話が、着信音を響かせた。
その音に、先ほどまで晴れない顔をしていた蒼二の表情が、柔らかなものに変化する。足早にベッドに近づき、蒼二は着信のランプを点滅させる携帯電話を手に取った。
――いつもの場所で待ってます。
件名もなく用件のみの簡素なメールが一通。それでも蒼二はふっと嬉しそうに笑みを浮かべた。そして室内に掛けられた時計の針を見つめれば、九時十五分を指していた。
少しばかり急いで、穿いたデニムの後ろポケットに携帯電話を差し込む。ローテーブルの上に置かれた財布も、反対側のポケットに押し込んだ。
そして壁掛けのキーホルダーに収められた、家の鍵と傘立ての長傘を手に取り、蒼二は外へと駆け出した。
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