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そこはそれほど広さはなく、小さな公園ほどだ。見渡せば人の有無は確認できる。暗がりの中で目をこらして見れば、一番奥にあるベンチに人が二人腰かけているのが見えた。ゆっくりと近づいていけば、その二人もこちらに気づいたようで顔を上げる。
「なにをやってるんだ二人で」
「昭矢、どうしてここに?」
とがめるような口調で昭矢が声をかけると、ここに現れることを想像していなかったのか、紘希が驚いた声を漏らす。そして目を細めて隣にいる蒼二を見た。
「蒼二さん」
「紘希、話は、終わった?」
「ああ、うん。もう少し」
「そっか」
まっすぐと見つめ返した蒼二に苦笑いを浮かべて紘希は肩をすくめる。けれどそこから先の言葉は続かなくて、やけに長い沈黙がその場に広がった。
慌ててわざわざ捜しに来る必要はなかったかもしれない。紘希の笑みを見て蒼二はそんなことを考えてしまう。下手に他人が首を突っ込んでも余計に話がまとまらなくなるだけではないか。
ちゃんと片をつけると言っていたのだから、紘希に任せておいてよかったはずだ。それにもしかしたら紘希は幹斗をここに呼び出したのかもしれない。よく考えてみれば、幹斗が紘希を追いかけて宿を出た時点でわかることだ。こんな夜に買い物など不自然すぎる。
「昭矢さん、帰ろう」
「え?」
「二人で話しあうことだろうし」
「喜多さん、もっと紘希にぶつかったほうがいいですって」
焦ったような昭矢の声。言われている言葉は蒼二にも理解はできている。それでもいまここでなにが言えるのだろうと、その先が思い浮かばない。
もう会わないで欲しい、もう名前を呼ばないで、もうこれ以上あの子のことを考えないで、そんなくだらない我がままをここで言ったって仕方がない。紘希は気に病むなと言ったのだ。
「ねぇ、ちょっと待ちなよ」
唇を引き結んだ蒼二が踵を返そうとすると、急に人の気配が近づいてくる。それに驚いてその気配の主に視線を向ければ、乱雑に腕を引っ張られた。
「あんた聖女面してるけど、淫売なんじゃないの? なにほかの男の手なんか握ってんの?」
ダウンジャケットの上からでも感じるくらいにきつく腕を掴まれる。間近に迫った幹斗に蒼二が目を瞬かせると、苛立ちをあらわにするように舌打ちをされた。
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