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「おいこら幹斗、これは俺が勝手に握っただけで、喜多さんは」
「振り払えばいいじゃん、それをしないのってどういう神経なの? 男なら誰でもいいわけ?」
「ごめん、深く考えていなくて」
「は? なにその言い訳。意味わかんないんだけど。汚い手で昭矢に触るなよ!」
荒々しく言葉を吐き出す幹斗に蒼二は戸惑いの色を見せるが、それが余計にかんに障るのか、掴まれていた腕を押し放される。そして勢い任せに繋がれていた手の甲を叩かれた。乾いた音が響いて、蒼二はとっさに手を引く。しかしそれでも睨み付ける幹斗の目は蒼二を射貫こうとする。
「紘希も紘希だよ。騙されてるんじゃないの? 馬鹿じゃない? こんなやつやめておきなよ」
「幹斗くん、俺のことはなんて言ってもいいけど、紘希のことまで悪く言わないで欲しい」
「なにいまさらいい子ぶってんの? すごい目障り!」
表情を硬くした蒼二に幹斗は眉を跳ね上げてひどく不快そうに顔を歪める。そして思いきり両手で蒼二の身体を突き飛ばした。
けれど身体が大きいわけではない蒼二でも小柄な幹斗とは体格差がある。二、三歩後ろへ後ずさるだけに留まった。それが腹立たしいのか、幹斗はおもむろに手を振り上げる。
「いい加減にしろ、いくらお前でも蒼二さんにこれ以上手を出したら許さない」
「離してよ紘希! こんな男、信用ならないじゃん。僕ならずっと傍にいて守ってあげられる。いままでだってそうしてきたでしょ。僕はずっと紘希の傍にいてあげたじゃないか!」
振り上げた右手を後ろから紘希に掴まれて、地団駄を踏むように幹斗は暴れる。そしてまくし立てるような声は少しずつ涙声に変わっていく。それでも紘希は掴んだ手を離さなかった。
「いい加減気づけよ幹斗。お前が好きなのは俺じゃない」
「なんでそんなこと言うの! ずっと好きだよ!」
「もう現実から目を背けるのはやめろ。お前が好きなのは俺じゃなくて、昭矢だ」
「……違う! 紘希だよ!」
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