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「幹斗!」
涙でくしゃくしゃになった幹斗に向けて、昭矢の手が伸ばされる。その手は小さな背中を強く抱きしめた。
「幹斗、これからのことは俺たち二人で考えよう。俺も、ちゃんと考えてみるから。紘希と喜多さんを巻き込むのはもうやめだ」
包み込むように両腕で抱きしめられて、幹斗は堰を切ったように泣き出す。けれどわんわんと大声を上げて子供のように泣く幹斗を昭矢は離さなかった。その姿を見てようやくほっと息がつける。蒼二は息を吐き出し、そして冷たい空気を胸いっぱいに吸い込んだ。
「蒼二さん」
ふいに聞こえた呼び声と近づいてきた気配。それに引き寄せられるように顔を上げれば、優しい目が蒼二を見据えていた。その目に微笑みを返して小さく首を傾げると、両手を広げて紘希は満面の笑みを浮かべる。
「紘希、もう、終わった?」
「うん、終わったよ」
「そう、よかった」
聞きたかった返事をもらって、蒼二は目の前の胸に飛び込むように駆け出した。そして腕を伸ばして背中を強く握れば、それ以上に強く抱きしめ返してくれる。肩口に顔を埋めて大きく息を吸い込むと、微かに優しい紘希の香りが鼻孔に広がった。ただそれだけなのに、蒼二はひどく安心できた気になる。
「ごめんね。いっぱい不安にさせた」
「うん、紘希を盗られたらどうしようって思った」
「もっと早く切り出せばよかったんだけど。言葉で言っても簡単に伝わらない気がして、機会がないか窺ってた。いま蒼二さんたちが来てくれてよかったかも」
「結果オーライってやつだね。二人は、どうする?」
「置いて帰ろう。いまは二人きりにしておいたほうがいいだろうし」
嗚咽が響く中でぎゅうぎゅうときつく抱き合う二人を見て、思わず蒼二は口元を緩めてしまう。二人がくっつけばいいのに、そう思ったことが本当になるなんて予想はしていなかった。
けれど必死な二人を見ていると、なるようにしてなった二人なのかもしれないと思える。そしてそれと共に、自分たちもそうであればいいなと思った。
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