甘恋-Amakoi-

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 二人で先に旅館へ戻ると、帰りを心配していた富に食事を勧められそのまま夕飯を食べることになった。昼の食事は味気なかったが、ようやく問題ごとも解決して美味しいご飯を思う存分堪能することができた。  晩酌もして食事が終わる頃には蒼二も紘希もかなりいい気分になっていた。  のんびり部屋に帰るとテーブルが窓際に寄せられ、布団が敷いてある。手土産に日本酒を二合ほど持ち帰ったので、座椅子を二つぴったりと並べて二人でそこに腰を下ろした。なに気なく外を見れば、ちらちらと雪が舞っている。思いがけない雪見酒に、二人で顔を見合わせて笑った。 「ようやく紘希とゆっくり過ごせてほっとしてる」 「うん、俺もようやく蒼二さんと二人っきりで気分がいい」  至極嬉しそうに笑った紘希は蒼二の肩に腕を回して、柔らかな茶色い髪に頬を寄せる。その仕草に笑みを浮かべる蒼二はすぐ傍にある紘希の顔をじっと見つめた。  出会った頃はもっと表情が少ないイメージだった。けれど二人で会うことが増えて、二人でいる時間が増えてきた最近は、随分と表情が柔らかくなった。ごく自然と笑う顔が可愛くて、その顔を見るとたまらなく幸せを感じる。 「紘希と会えてよかったな」 「え? どうしたの急に」 「なんか毎日紘希のこと考えるの楽しいし、傍にいればすごく幸せだし。小さなことだけでもそれで嬉しいって思うんだ。いままでの人たちも好きではあったけど。毎日顔を思い浮かべたりしなかったし、メールや電話だけで一喜一憂しなかった」  出会った時から特別だった。いつもだったら蒼二はそんなに簡単に頷きはしない。けれど紘希という人間に一目会った時から惹かれたのだ。それだけは確信している。誰でもよかったわけではない。紘希だから蒼二は選んだ。 「今回のことですごく実感したんだけど。思ってることは伝えないと駄目なんだなって。……だからさ! 一緒に暮らさない? これはさっきご飯を食べながら思ったことなんだけど。一緒に暮らせば忙しくても家に帰れば会えるでしょ。最近会えなくて結構寂しくて」
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