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「それは駄目」
「えっ?」
悩みこそしても即答で断られるとは思っていなかった。きっぱりとした言葉に蒼二は目を丸くして驚きをあらわにする。そしてまじまじと紘希の顔を見つめ、みるみるうちに表情を曇らせていく。しかしその表情の変化に紘希は焦ったように両腕で蒼二を抱きしめた。
「ごめん、言葉が足りなかった。駄目っていうのは、そういう意味じゃなくて。それは俺が言いたかったんだ」
「どういうこと?」
「俺、蒼二さんに会ってからずっと貯金してて、もう少しで目標額になるから、それから言おうと思ってたんだ。一緒に暮らそうって」
「もしかして、最近特に忙しいのってそれが原因?」
「あ、うん。あとちょっとだし、年内に目標達したくて」
抱きしめられた腕から顔を上げて蒼二は紘希を見上げる。すると見つめた先にある顔は頬を染めながら照れくさそうに笑う。その顔を見た蒼二はおもむろに両手のひらで目の前の肩を何度も叩いた。
「え? ごめん。どうしたの?」
「もう! そういうことは言ってよ! 俺、すごい寂しかったんだから!」
「ごめん、目処が立つまではなかなか言えなくて。言えば蒼二さんが出すって言いそうだったし」
「それは、きっと言うかもしれないけど。それでも相談くらいしてよ。もう、馬鹿」
肩口にぐりぐりと額をこすりつける蒼二は、熱くなった頬を誤魔化すように俯く。寂しかった、すごく。けれどそれ以上に自分とのことを考えてくれていたことに、嬉しくて胸が高鳴る。そのごちゃ混ぜの感情の行き場がなくて、両腕を伸ばして背中を抱きしめた。
「ごめんなさい。今度からはなんでも相談するよ。だから来月にでも一緒に物件を見に行こう」
「うん、行く」
「場所はなるべく交通の便がよくて、二人の職場に通いやすい場所が理想だよね。譲れないのはお風呂が広いところ。書斎は一つ欲しいかな」
「あとは寝室に大きいベッドが置けるところね。春になる前に引っ越しできたらいいね」
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