新しい私

3/3
前へ
/3ページ
次へ
 悟史さんは私に色々な衣装を着せた。ノートパソコンに映った注文ボタンを押すと、アニメのキャラクターの服が部屋に届いた。ピンクのセーラー服、ふわふわのネコ耳、下着が見えそうな短いスカートのメイド服。いろんな新しい私が届いた。  私は衣装を着て悟史さんと一緒にアニメを見ながら、新しい私について勉強した。語尾や性格、決めポーズ。  電動ミシンの音が止まった。 「できたデス?」 「うん…」  一ヶ月ぐらい前から悟史さんが手作りしていた新しい私が、今、完成を迎えた。  私はその場で古い私を脱ぎ捨て、新しい私に着替えた。  白のスクール水着の腰と肩に半透明のフリルが付いている。頭には大きな空色リボン、背中に小さなピンクの羽。他にもごてごてした飾り付けがいっぱい詰まっている。小さなメリーゴーランドみたい。  世界でたった一つだけの、新しい私。  いじめられていた時、私は泣かなかった。家出をする時も、涙を流さなかった。  新しい私は悟史さんに抱きつき、声をあげて泣いた。  そのまま私たちは手を繋いで部屋から飛び立った。  持ってきた果物ナイフは、部屋に置いてきた。  私たちはもうどこにも帰らなかった。
/3ページ

最初のコメントを投稿しよう!

0人が本棚に入れています
本棚に追加