新しい私

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新しい私

 カタカタ…カタカタカタ……  電動ミシンで布を縫う音がする。  男の人が私の新しい衣装を作っている。私は()つん()いになって、さっきからそれを眺めている。  男の人がちらりと私を見た。私は肩をすぼめて言った。 「もうすぐできるデス?」 「うん…」  男の人は、はにかむような小さな笑顔でそう答えた。  この人の名前は神田(かんだ)悟史(さとし)。免許証にはそう書いてあった。年齢は二十七歳。  私の名前は、まあいいや。とりあえずは女の子で、とりあえずは十四歳。そしてとりあえず今はカレンというアニメのキャラクターになりきっている。  私は家出少女。三ヶ月前にこの部屋にやってきた。  私は学校でいじめられていた。私への攻撃が始まったきっかけ、それは私がある男の子の告白にNOと答えたから。アイドルグループのメンバーの一人に少し似ているだけの、ただの男の子。その子からラブレターが届いてしまった。  私への攻撃は水面下で行われた。根も葉もない噂が病原菌のように広まっていった。みんなで笑い合い、アイディアを出し合いながら、噂を塗りたくって新しい私を創造していった。     
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