新しい私

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 私が学校に行く事をドロップアウトする頃には、私のイメージはもうモンスターのようになっていた。モンスターの私はテストでカンニングをしたり、万引きをしたり、男の先生と性的な関係を持ったりとやりたい放題だった。  本物の私は膨らみ続けるモンスターの私に負けてしまった。粉々に。跡形もなく。  真っ白になった私は新しい私を作る旅に出た。それが家出。  赤いニューバランスを履いて空色のパーカーを着た私は、持てるだけの現金と果物ナイフを連れて駅へ向かって歩いた。  寝床(ねどこ)に困るようになった家出三日目の夜、私は目に付いたアパートの玄関先でうずくまっていた。サラリーマン風の住人らしき人が声をかけてきたので、私は立ち上がって果物ナイフを突き出しながら言った。 「お金出して…」  その人は何も言わずアパートの扉を開けた。そして私を見て、少し鼻をすすりながら(こら)えるように涙を流した。  それが神田(かんだ)悟史(さとし)さんとの出会いだった。  私と出会ったその日、悟史さんは会社を辞めたらしい。悟史さんが持っていた仕事用のバッグには、マグカップと会社を辞めた人向けの手続き書類がぐしゃっと詰まっていた。     
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