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声をかけたが、なんて言ったらいいのか、わからなかった。
不知火さんの表情はぼんやりとしか見えなくて、今、何を思っているのか。
なぜ、私を抱きしめてくれたのか。
聞きたいのに、言葉にならなかった。
不知火さんは何も言わず、スッと落ちた洋銃を取り上げると、腰へとしまう。
「降ってきたな」
涙をぬぐって、ぼんやりとしか見えなかった顔が、先ほどよりはっきりと確認できるようになる。
でも、空を見上げるその表情は、何を考えているのか、わからない。
「部屋へ戻れ」
そう言われて、自分の部屋へ振り返った。
暗い部屋の中。
気持ちは落ち着いたけど、布団に戻っても寝れる気がしなかった。
まだ夜は深く、朝は来ない。
でも、雨も降り出したし戻らなくてはいけないのはわかる。
でもー…
「ほら」
そのままいなくなるのかと思ったけれど、このまま私が部屋に戻らないかもしれないと思ったのかもしれない。
不知火さんは部屋の前まできてくれて、私は促されるまま、部屋へ戻る。
出てきた時より、部屋の中が更に暗いのは雨雲のせいだ。
このまま不知火さんが離れていきそうな空気を感じて、背中を向けられる前に後ろに立つ不知火さんへ声をかける。
「待ってください」
暗い暗い部屋の奥。
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