はじまりの夢

11/14

10人が本棚に入れています
本棚に追加
/14ページ
行燈に火をつけてから箪笥を開けて、手ぬぐいを引っ張り出す。 少し濡れてしまった不知火さんへ、手ぬぐいをさし出した。 「中で拭いてください」 降り出したばかりでまだ小雨とはいえ、体を濡らすのはよくない。 なんて、程のいい言い訳に過ぎないことは自分が一番よくわかってる。 この人は敵だ。 新選組と敵対している長州藩の人。 新選組の隊士さんたちだって何人も怪我をさせられて。 だから長居させてはいけない。 そもそも部屋に入れるなんて以ての外だ。 誰か呼ばなければいけない。 頭の中ではそうわかっているのに、できなかった。 「そのままでは風邪をひいてしまいます」 雨は先ほど降り出したばかり。 音もしないほど、弱い雨。 さほど濡れてなどいないことはわかっていた。 このまま要らない、と背中を向けていってしまう可能性のほうが高い。 それでも願いを込めて、差し出したまま受け取ってくれるのを待った。 しばらく不知火さんは私の顔を見つめていたが、小さく笑って息を吐いた。 「…あぁ」 不知火さんは部屋のふすまを後手で閉めて、手ぬぐいを受け取った。 そしてそのまま私に手ぬぐいをかぶせる。 「え、あ、なにを?」 「あんたも濡れてるだろ」 大きな手が手ぬぐいと共に動く。     
/14ページ

最初のコメントを投稿しよう!

10人が本棚に入れています
本棚に追加