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行燈に火をつけてから箪笥を開けて、手ぬぐいを引っ張り出す。
少し濡れてしまった不知火さんへ、手ぬぐいをさし出した。
「中で拭いてください」
降り出したばかりでまだ小雨とはいえ、体を濡らすのはよくない。
なんて、程のいい言い訳に過ぎないことは自分が一番よくわかってる。
この人は敵だ。
新選組と敵対している長州藩の人。
新選組の隊士さんたちだって何人も怪我をさせられて。
だから長居させてはいけない。
そもそも部屋に入れるなんて以ての外だ。
誰か呼ばなければいけない。
頭の中ではそうわかっているのに、できなかった。
「そのままでは風邪をひいてしまいます」
雨は先ほど降り出したばかり。
音もしないほど、弱い雨。
さほど濡れてなどいないことはわかっていた。
このまま要らない、と背中を向けていってしまう可能性のほうが高い。
それでも願いを込めて、差し出したまま受け取ってくれるのを待った。
しばらく不知火さんは私の顔を見つめていたが、小さく笑って息を吐いた。
「…あぁ」
不知火さんは部屋のふすまを後手で閉めて、手ぬぐいを受け取った。
そしてそのまま私に手ぬぐいをかぶせる。
「え、あ、なにを?」
「あんたも濡れてるだろ」
大きな手が手ぬぐいと共に動く。
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