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髪が乱れてしまうと思ったが、気遣ってくれたようで、丁寧にふかれて、肩や、腕も拭いてもらってしまって、なんだか申し訳なかった。
「ありがとう、ございます」
少し照れくさくなって、顔を見れずに俯いたままお礼を言ってしまった。
そのまま箪笥の引き出しをしまうため、不知火さんに背を向ける。
「もう濡れてねぇな?なんなら着替えさせてやろうか?」
!
何を言っているのか。
とっさにあげそうになった声は、なんとかのみ込んだ。
ほほが熱い。
「…いりません」
箪笥を見つめたまま振り返らずに答えたら、クククと小さく笑う声が背中から聞こえる。
そして、ガサガサと手ぬぐいを使っている音が聞こえた。
「入んな」
捲くられた布団に、言われるまま横になると、手ぬぐいを肩にかけた不知火さんが布団をかけてくれた。
「寒くねぇか?」
「はい」
消すぜと言われて、行燈が消えて、部屋が再び暗闇に満ちる。
雨の音は聞こえない。
暗闇に支配された部屋の中は、何も見えない。
でも、わかる。
不知火さんがまだここにいること。
でも、灯りが消えたから、もういなくなってしまうだろう。
「おやすみなさい」
ふすまのほうを見つめて、いなくなるであろう背中へ声をかける。
ありがとうございます。
心の中で、もう一度お礼を言った。
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