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かさり。
葉っぱの鳴く声が聞こえて、かけられた声が聞こえた暗闇に目を凝らす。
薄雲に隠れていた月は姿を見せたらしい。
照らされた月光で、見つめた樹の陰から現れた人の顔が確認できた。
「不知火、さん」
風間さんと一緒に、新選組を襲撃してきた鬼、らしい人。
黒い肌からのぞく竜の紋様。
癖のある青い髪は暗くてよく見えないが、頭上にまとめられてゆらゆらと揺れているのがわかった。
「な、ぜ?」
なぜ彼がここにいるのか。
口の中が乾いていて、尋ねた声はかすれてしまった。
先ほどとは違う緊張から、手のひらに汗がにじみだす。
どうしよう。
どうするべきなのか。
いつも持ち歩いている小太刀は、部屋に置いてあるから、今の自分は丸腰だ。
今考えれば、彼らは新選組の屯所に侵入してきたことがあるのだ。
また侵入してくることは充分あり得るのだから、警戒しなければいけなかった。
いくら夢見が悪かったとはいえ、その可能性を失念して部屋を後にしてくるなんて愚かだったとしかいいようがない。
小太刀があれば彼と戦えるというほど、己の腕に自信を持っているわけではないが、丸腰では逃げる以外どうしようもない。
かといって、自分の足で目の前の人物から逃げきれるとは思えなかった。
どうしたらいいか。
悲鳴をあげれば幹部の誰かが駆けつけてくれるだろうか。
カラカラに乾いた口の中は強張っていて、大きな声を上げられるか不安だった。
でも、今自分が取れる選択肢はそれしか浮かばない。
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