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力が入らない。
手で触れられる距離だから、銃の先は不知火さんの左胸に完全に触れている。
銃を扱ったことなどないが、いくら不知火さんが早く動けたとしてもこの距離で当たらないことなどあり得ない。
それはわかるはずなのに。
不知火さんは、銃を突き付けられていることをまるで気にした風もなく私に手を伸ばした。
撃たれても平気だと思っているんだろうか。
鬼の治癒力は人間の比でない。
そのことは自分の身をもって知っている。
軽い切り傷、擦り傷なんか、たちどころに治ってしまう。
たとえ銃に撃たれたとしても、その傷は同様だ。
でも、痛みはもちろんあるし、鬼は不死身ではない。羅刹がそうであるように、致命傷…心の臓を撃たれたら、死なないわけではないはず。
では、なぜ。
ぐるぐる考えているうちに、不知火さんの手が動く。
「っ…!」
私の髪を払う、その動きにまったく悪意は感じなかった。
自分の胸に銃が突きつけられていることなんて、目に入っていないかのようだ。
触らないで!
そう叫べばいいのはわかっているのに、声が張りついてしまったように出てこない。
これ以上、触れられるのが怖くて。
後ろに引きさがろうとして、その動きを阻むようにほほへと手が添えられた。
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