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「泣いてんのか?」
頭の上から、悪意のない気遣いの言葉が降ってくる。
心配されている。
そう、ただ心配してくれている。
落ちてきたその声色からも、先ほどからの仕草からも、私を気遣う優しさしか感じ取れない。
それがわかってしまっているから、引き金を引くなんて出来なくて、力の抜けた手から洋銃がすべり落ちる。
私は体の震えを止められないまま、わずかに首を振った。
たしかに、さっきからの自分の態度はおかしいだろう。
でもだからといって、取り繕えるほどの余裕は今の自分にはなかった。
ぎゅっと目をつむる。
その瞬間。
ついさっきまで朧気だった夢の中身が突然、目の前に蘇った。
暗闇の中。
飛び散るのは赤。流れる赤。踊り狂うあか。
黒を塗りつぶしていく赤。
あちこちで響き渡る悲鳴と雄叫び。金属のぶつかる音と、たくさんの足音が後から後から追いかけてくる。
鼻についた血と肉が焼ける臭いは離れてくれなくて、吐き気を込み上げてくる。
救いを求めて開いた口から入ってくる空気は暑くて苦しくて、吐いた息すら燃え尽くしてしまいそうだ。
助けて!助けて!
「やっ…」
夢でまとわりついていた黒と赤が、どんどんあふれ出してきてパニックになった。
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