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涙ににじみ出した視界は急速にぼやけていく。
頭の中でこだましている音が、私の中で暴れて、逃げ場がなくて。
耳をふさいでその場にしゃがみこもうとした、その時。
「悪ぃ」
小さな謝罪が耳に届いたのと、包まれたのはほぼ同時だった。
硬い胸板に押し付けられ、私は不知火さんに抱きしめられていた。
ふわりと香る、大人の男の人の匂い。
肌から染み込んでくる温かさは、離しがたくて。
ただ離しがたくて。
優しさにすがりつきたくて。
震える指先と涙が止まらなかった。
大きな手が私の背中をまわり、不知火さんの息遣いが耳もとで聞こえる。
上から下へ。上から下へ。
何度も何度も髪を撫でられて。
「…っ」
嗚咽がこぼれて、目の前の不知火さんにしがみついた。
不知火さんの服へあふれた涙が染み込んでいく。
一人じゃない。
不知火さんは何も言っていない。
でも、耳もとで誰かにだいじょうぶと囁かれたような気がした。
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