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はじまりの夢
「!」
叫ぼうとした言葉は声にならなかった。
詰まったような息を吐き出し、布団から飛び起きた。
額に首に、嫌な汗がまとわりついている。
夢だ。
今、自分が見ていたものは。
見慣れた天井と周りの空気、暗闇に浮かぶ景色でそれは認識できるのに。
息苦しさすら感じて、何度も体に詰まっている何かを吐き出すように呼吸をくり返す。
自分が何の夢を見ていたか、その中身すら既に朧げだというのに、汗と共にまとわりついた嫌な暗闇は未だに色濃く残ったままだ。
ぎゅっと目をつむる。
布団を握りしめて、顔を伏せても体の中に残った嫌な何かは、消えていかない。
このまま、再び寝るのは無理だ。
同じ夢を続けて見たことはないが、とても寝れそうにない。
大きく深呼吸をして、布団から出る。
少しためらって、でも、一息こぼしてから部屋のふすまをわずかに開けた。
庭先が見える。
月明かりが少し照らしているのがわかる。
はぁー。
こぼした自分の深呼吸は、思ったより大きく響いた気がして慌てて口を押さえた。
自分は今、男装してここに置いてもらっている。
他の隊士さんと話してて、万が一にも女だと気づかれてはいけない。
それは自分でわかっていたから、普段からできるだけ屯所内は出歩かないようにしていた。
まして、今の自分は寝巻きだ。迂闊に歩きまわって誰かと鉢合わせするのはよくない。
それはわかっている。
わかっているけれど。
ふすまに手をかけたまま、うす暗くなっている自分の部屋をふりかえった。
布団を見やると、寝る前の光景と変わらない。
変わらないのに、そこにまだ夢の中にいた暗闇が布団に、そして自分の体にまとわりついているように感じた。
そんなことは気のせいだとわかっているけれど。
もう一度、ぎゅっと目をつむる。
少しだけ。
ごめんなさい。
廊下の気配をうかがい、音をたてぬよう、静かに開いた。
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