好きな人

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 私こと、鷹瀬香菜子には好きな人がいる。  その人はいつも遠くを見ていて、決して近くを見てくれない人だった。と言うより、近くが見えない人だった。 「なあ、真。お前なんでそんなによくつまずくんだよ・・・」 「あ、はは。遠視だから・・・かな?距離感が上手くつかめなくて・・・」 「眼鏡かければいいだろ」 「眼鏡をかけると、近く以外が何も見えなくなるし、人の顔が分からなくなるから好きじゃないんだぁ」  ・・・違うでしょ。貴方が眼鏡をかけないのは、貴方が好きな人を貴方がこっそり見たいから、でしょ!  教えてくれたのは、天野真くん・・・貴方じゃない。  私の前で幸せそうに笑っちゃってさあ。そのあと、泣きそうな顔で笑って―――私が告白したそのあとに! 『ごめん、僕には好きな人がいるから、かなちゃんとは付き合えない。たとえあの子が僕のこと好きじゃなくても、諦められないんだ・・・』 『そ・・・っか。やっぱりね。まこちゃんの気持ちが、ずーっと教室の隅の席にあったの、私は知ってるから』 『そ、そんなにあの子のこと気にしてた!?僕が!!?』 『幼馴染の私にしたら、あからさまでしょ。まこちゃんが眼鏡外して、もしくは眼鏡の縁の上とか横から、ちらちら見てたんだから』 『うわぁ~照れる・・・!ふふ・・・。あーあ、かなちゃんはわかってくれてるのになあ・・・』  振られたときは頭の中が真っ白になって、全部の音が世界から消えた気がした。  でも、まこちゃんの声だけは、音一つない真っ白な世界でやけに響いて・・・。  まこちゃんが照れながら嬉しそうに、そして泣きそうに笑うから、私はまこちゃんをぎゅって抱きしめてあやした。・・・濡れていく肩口に、私まで泣きそうになって必死に堪えるのが大変だった。  ―――次の日、その様子を見てたんだろう、まこちゃんの好きな人・・・橘雪子さんから睨まれた。  その時わかっちゃった。ああ、橘さんもまこちゃんのこと、好きなんだなって。  二人はまだ付き合ってないけど、私は二人の仲を応援すると決めてた。ちゃんと二人がくっつけるように、頑張って後押ししてる途中だ。  ・・・でもなんでかなぁ。  小さい時から、あんなに鮮やかだった景色なのに、今はもう真っ白にしか見えなくて、真っ白な世界にはあの2人とそれを見てる私しか、見えないや・・・。
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