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「……ねぇ、黒川くんはバンド続けたい?」
避け続けていた現実を、唐突に放り込んでみる。自ら投じたのに関わらず、身が竦み、耳を塞ぎたくなった。
だが。
「もちろんですよ。夏香さんはどうしたいです?」
ほとんど間髪入れず、声が響いた。
その表情は、全く変わらない。不安を取り除いてくれる、太陽のような顔のままだ。
「…………えと、出来るならやりたいかな。今の仲間が解散してやめるとかではないけど、叶うなら今のメンバーと……」
留めていた意見を口にでき、やっと痞えが取れた。叶うかはさておき、意志表示出来ただけでも合格だ。
と、思ったのも束の間――。
「良かった、同意見! これも言えてなかったんですけど夏香さんさえ良ければ続けようとも喋ってました。皆で」
「……え?」
どうやら、皆の意志は固まっていたらしい。悩む必要性など無かったということだ。
ただ、悩んだ分、喜びは大きかった。必要性はなくとも、無駄ではなかったらしい。
「話するタイミング逃しまくりましたね!」
「本当だよー!」
「あの、夏香さん」
黒川くんが立ち止まった。一歩進んだ私は、時差で立ち止まり振り返る。
「バンド仲間としても、恋人としても、これからも末永くお付き合いお願いします」
お辞儀と共に向けられた言葉が、歌われた歌詞と重なった。
大好き。貴方は掛け替えのない存在。隣にいると嬉しくなる。貴方とずっと一緒にいたい。出会ってくれてありがとう。
それらは今、私の胸にも宿っている。
「……明日、私も一生懸命歌うから。作ってくれた奴、心を込めて歌うから」
顔を上げた黒川くんは、数秒だけ瞳を丸くしていた。だが、直ぐに笑って、右手の平を掲げた。
「楽しみです! 明日、頑張りましょうね!」
私も、向かいの手を掲げる。
「ライブ、絶対成功させよう!」
パチンと、ハイタッチの音が鳴り響いた。
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