暴食の魔王

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「あー、まだ腹減ってんなぁ」  自室に戻り、ベットに胡座をかいて壁に寄りかかる。ついさっきまでゴブリンに喰い殺されそうになっていたのに、今は飯のことしか考えられない。 どうなっちまったんだ俺の思考回路は。 あんだけ食ったのにまだ腹減ってるし。  少し落ち着こう。あんな事があったから感情が麻痺してるんだ、きっと。 瞼を閉じて、深呼吸。 瞼を開けると、目の前に顔があった。 「――ッぁあ!?」  つい驚いて、絶叫を上げてしまう。 昆虫というか、蝿のような真っ黒な顔がそこにあった。だが作り物ではなく、もっと気持ち悪くて生々しい。しかも、生き霊みたく細い首が俺の背中辺りにくっ付いている。 ナニこれ、めちゃくちゃ怖いんだけど。 『おぉ、やっと出てこれた』 「な……なん……お前ッ」 『まぁ落ち着けよご主人。怖がることはない』  虫の顔が喋る。重低音で、身の毛がよだつ声音。口裂け女のような大きな口が開くと、鋭い牙が綺麗に並んでいた。口からヨダレが溢れ、細く長い舌が垂れている。 どっからどう見ても化物だった。 そして、どこか聞き覚えのある声だった。 「お、お前は……」 『オレ様を知りたいか。知りたければ教えてやろう』 ――一体何だ。 そう問うと、虫の顔はニヤケ面でこう答えた。 『オレ様は暴食の魔王――ベルゼブブだ』  このベルゼブブとの邂逅が、俺の運命を大きく動かすことになる。
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