アラベド

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「久しぶりですね、こうして顔を合わせるのは何年ぶりでしょうか」 「さぁな、一々覚えておらん」 「戦う前に一つだけいいですか。どうして魔王軍(ウチ)を裏切ったんですかね」 「悲願の成就」  問いかけを即答で返されたアラベドは「そうですか」と満足そうに微笑むと、続けて口を開いた。 「ならば何の問題もありません。己の信念に基づいた行為であるならば、僕から言う事は一つもありませんよ。きっとバロムさんやアっちゃんも許してくれます」 「許しを乞う必要などない」 「それもそうですね。じゃあ久方ぶりのお喋りはこれまでとして――戦いましょうか」 「――ッ」  刹那、アラベドの纏う空気が一変した。 細身の身体から信じられない程の圧力(プレッシャー)が湯水の如く漏れ出す。温厚で優しい彼の目付きが獣のように鋭くなり、深緑の長髪が炎のように揺らめいた。 (凄まじい王気。また一段と格を上げたか)  アラベドが纏う王気は、妖王が手放しで感心してしまう程濃密なものだった。 ザラザードも王の器の持ち主ではあるが、アラベドに比べたら貧弱と言っていいだろう。魔王バロムやアルスレイアの前では無いに等しい。 流石、バロムに選ばれた最強の戦士なだけはある。噂ではアルスレイアと同等の実力があるとか。 「イキがるなよ若造」  ザラザードの肉体から凄まじいエネルギーが迸る。空間が歪み、彼等がいる空が暗黒に染まっていった。 四天王が一人、妖王ザラザード。吸血鬼(ヴァンパイア)種最上位の吸血王鬼(ロードヴァンパイア)。最年長魔族であり、遥か昔から血みどろの戦乱を生き抜いてきた男の力はアラベドでも計り知れない。  ――が、それと戦うのもまた面白いだろう。 「貴方とは一度手合わせしてみたいと思ってたんですよ」 「その減らず口、すぐに塞いでやろう」  勝気な笑みを浮かべるアラベドに対し、調子に乗るなとザラザードも犬歯を覗かせる。  遊王と妖王。 二人の王による戦いの幕が静かに上がった。
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