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「念のため、缶詰も持っていこう。非常食があると安心だ」
東京にある本社へ一週間の出張に出発した父が、すぐさま戻ってきてこんなことを言うので、娘の聖里は玄関口で面食らっていた。
出張に缶詰。
この人はいつもこうだ。あれこれ細かく前準備をするくせに、さらに「念のため」と言ってどうでもいいものを用意したがる。
「ツナ缶でいいですか?」
どこまで本気なのか、母親がキッチンからツナの缶詰を持って玄関に戻ってきた。
受け取った父親は真剣な表情で旅行カバンに缶詰をねじ込むと、それじゃ改めてと言って出かけていった。
「出たね。パパの『念のため病』」
呆れる聖里だったが、母は意にも介さず玄関のドアを凝視している。
「ママ?」
「静かに。また戻ってくるわ」
果たして母親の予想通り、父親は再びドアを開いて戻ってきた。
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