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夕食を終え、聖里はリビングで漫然とテレビを観ていた。自分の部屋に籠る気にはなれず、誰かと電話でおしゃべりをする気分にもなれなかった。するといつもなら食後はダイニングテーブルで読書をする母親が、陽気な様子で声をかけてきた。
「聖里、彼氏できたんだって?」
ソファーの上で立て膝にあごを乗せていた聖里は、ずるりと頭を滑らせた。
「なんのこと!?」
「パパが気にしてるみたい。聖里の恋人は翔太っていうのかって、LINEが来たわよ」
母の言葉に、聖里は混乱した。父は本当に翔太に心当たりがないのだろうか。それとも、すべてを隠すための芝居を父と母で始めたのだろうか。それでも、目の前にいる母の言葉や素振りに、嘘くさいところは見られなかった。
「ママ、正直に答えてね。私の親戚に、翔太っていう名前の人はいる?」
聖里は結局、ストレートに訊くしか方法を思いつけなかった。
すると今度は母親が混乱したようだ。神妙な表情をしながらも、かろうじて首を振っている。「聞いたことはないわね」
やはり、あの紙の白い部分とは、母も知らない「父の秘密」なのかもしれない。それを自分が暴いていいものなのか、聖里はわからなかった。でも、父が不在の今はいいタイミングでもあると思った。張本人がいないからこそ、その妻と娘で話せることもある。
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