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「パパったら、私と付き合ってた頃から用意周到だったのね。その覚え書きをまとめたのが、この紙なんじゃないかしら」  浮かれる母をしり目に、聖里は最も気になっていた紙の中央部の解読に取り掛かった。 『男の子が生まれたら「翔太」。』 『女の子が生まれたら「聖里」という名前を提案する』  書かれていたのは、子供にどんな名前を付けるかという父親のアイデアのようだった。他の部分が消えたために、手書きの「翔太」と「聖里」だけが残っていたのだ。 「ということは、私の名前をどうするかってことまで、付き合ってた頃に考えてたってこと?」 「そうなるわね。ママも初めて知ったわ」 「さすがに先回りしすぎだよ。ちょっと引いた」 「そう? 健気だなあって、ママはちょっと嬉しいわよ」  翔太とは、生き別れの兄でもなく、許嫁(いいなずけ)でもなく、男の子が生まれた場合の名前案であった。真実は、わかってしまうと案外単純なものだと、聖里は拍子抜けした。そして同時に、複雑な事情がなかったことにやっと安堵できた。 「でも、そもそもなんで、翔太と聖里だけが手書きなんだろ」
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