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思い切って、上向きの矢印をタップした。
「魔女が弟子入りしてきた、って言ったら信じるか?」
うちこんだメッセージがトーク画面に移動すると、すぐに返事が来た。相変わらず早い。
『魔女って、あの魔女? 魔法を使う? へぇー、いるんだ、そんな人。っていうか、なんでまた栄司に弟子入り?』
「俺、いつも公園でマジックショーやってるんだけどさ。それを見て、勝手に『師匠』って呼び始めたんだよ。俺がやってるのは手品なのに、そいつは本当の魔法だと思ってるみたいで」
『へえ、可愛いじゃん』
「これが幼稚園児なら可愛いよ? でもそいつ、中学生くらいなんだぜ」
『えっ、それは、心配になるね』
「だろ? やべーよな。だから追い払おうとしたんだ」
『どうやって?』
「入門試験をするって言って、トランプを渡したんだ。さっきのショーで俺がやってたマジックの、簡単なやつを再現してみせろ。できなきゃ弟子にはしない、って」
『マンガみたいだね。それはそれで、喜ばれたんじゃない? その子、そういうの好きそう』
「喜んだかは知らねーけど、一生懸命いじり回してたよ。もちろんマジックの再現なんてできなかったけど、でも、なんかこう、信じられないことが起きたんだよ」
『えー、なになに?』
「俺がやれって言ったのは、よく混ぜたトランプの中から、あるカードを取り出すっていうのだったんだ」
『いかにもマジック! ってかんじだね』
「そいつはカードに仕掛けがないか調べたりもしないで、とにかく当てずっぽうでカードを引いては外れて、まためちゃくちゃにカードをきって、っていうのを繰り返してたんだ。でも十回目くらいかな、イライラしたのか、カードを放り投げたんだ」
『あちゃー。入門試験でそんなことしたら、一発アウトだろ』
「それがさ、カードが止まったんだ」
『止まった?』
「投げられたまま、空中でピタッと止まってた。時間が止まったみたいに。俺、信じられなくて、そのまま突っ立って見てた。そしたら、その自称弟子がカードを動かし始めたんだよ」
『どういうこと?』
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