2人が本棚に入れています
本棚に追加
『良いアイデアじゃない? どうせお客さんは、眼の前で行われてる不思議なことが手品でも魔法でも、どっちでもいいんだ。大事なのは、そのショーを見て楽しめるかっていうことでしょ。魔法を利用したマジックなんて、盛り上がること間違いなしじゃん』
確かに、言われてみればそうだよな。
リーミンのメッセージを読んでいるうちに、栄司は少しずつやる気がでてきた。
「よし、明日あいつと話してみるよ」
『本当! 話したら、また教えて。楽しみに待ってるからさ』
「もちろん」
明るい表情の絵文字を付け足して送信してから、栄司はベッドの上で仰向けに大きく伸びをした。
頭の中では、早くも明日のシミュレーションが始まっている。
明日、まずどんな風に話を切り出そう。あいつ、どんな反応するかな。あの魔法をショーに活かすとしたら、どんな演出がいい? ああそうだ、あいつのステージネームも考えないと……。
こんなに明日が待ち遠しいのは、あの日以来だ。
ワクワクしながら膨らんでいた妄想は、スマホがブブッと震える音に中断された。
リーミンか? とすぐに画面をのぞくと、クラスのグループにメッセージが投稿されたとの通知だった。
冷水を浴びせられたかのように、さっきまでの楽しい気持ちが急速にしぼんだ。
目障りだったので通知を消そうとしたところ、新たな通知がきた。また同じグループだ。
どうも本日、クラスの田中のチャリの鍵がなくなったようで、鍵を見かけた者がいないか情報を求めている。それに応えて、クラスの連中が次々とメッセージを投稿しているのだ。この流れが、しばらくは止まりそうになかった。
うるせえな、こんな時間に。
舌打ちしてから、そうか部活が終わるのはこの時間だったなと気がついた。そんな当たり前のことも忘れていた自分に、さらに苛立ちがつのる。学校に行かなくなったのは、つい数ヶ月前からだというのに。
みるみるうちに未読の数字が膨らんでいく。
この目障りな数字を消すためだ、と自分に言い訳をして、栄司はグループをのぞいた。
中では、教室と同じノリの、バカバカしい会話が繰り広げられていた。田中たち、声の大きな生徒が冗談を飛ばし合い、話は脱線しつつある。
意味のない、薄っぺらい会話を飛ばしながらスクロールしていった栄司の指が、突然とまった。ある投稿に目が吸い寄せられる。
唐突に、自分の名前が出ていた。
最初のコメントを投稿しよう!