郊外へ

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ヘニングは波音を見て、右手を差し出した。波音も応じて、二人は握手する。ゴツゴツした大きな手だった。 「あなたのことは、ほぼ毎日スバルから聞いています」 英語に切り替えて話される言葉に、波音は白い頬をピンク色に染めた。 「えっ! あ、そうですか」 「助けていただき、ありがとうございました」 にこりともしないヘニングだが、誠実なのは目を見れば分かる。波音も直感的に、彼が信頼できる人だと分かった。 「スバルはハノンに会いたいと言っていました。衰弱していますので、どうかとは思いますが」 昼からドッシリとしたアイスバインを大きな口でモリモリ食べながら、ヘニングが波音を見た。 「マネージャーを通さないと会うこともできないなんて、立派になったもんだ」 西野が悪態を吐く横で、波音は手にしていたクラムクーヘンを皿の上に戻して身を乗り出す。 「あたしも会いたいです。ちょうど学校も休暇中だし、何日か泊まって面倒みます」 「丼物料理以外も覚えてきたのか?」 横槍を入れて茶化す西野を、波音は思い切り睨んだ。穴を開けてやるつもりの鋭い眼光に、流石の西野も怯んで「冗談だって」と口を尖らせる。 ポーランドの家に沖島と西野が初めて遊びにきた時、料理上手な波音の母は急な出張で出掛けていた。その代わりに仕方なく波音が料理を振る舞ったのだが、彼女は当時丼物しか作れなかった。 ドイツに来て三ヶ月。日本の味に飢えていた沖島は嬉し泣きしながらその親子丼を食べたので、結果的には大成功ではあったが。 「体にいいものくらい作れるわよ。ネットでレシピ調べられるし」 「ほほー。見ものだな」 「あんたには何も出さないわよ!」 「はあー? スバルのこと知らなかったのに、今更彼女面か?」 「助けを求めてきたくせに、よく言うわね」 エンドレスで言い合う二人に割って入り、ヘニングは咳払いした。
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