コンサートの曲目

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バスを降りた瞬間から感じていたドイツの重厚感。陸続きなのに空気の重みが違うのは不思議だった。 久し振りにやってきたベルリンの街を散策した波音。 夕食は西野と会って食べる約束だ。コンツェルトハウスの近く、シュワーベン地方の料理が食べられる小さなカフェ。 西野に指定された店は、教えてもらった通りを歩いているとすぐにどこか分かった。と言うのも、ガラス張りの向こうに、周りとは明らかに異質な黒い影を見つけたからだ。 「やっほ」 「おお、久しぶり」 数ヶ月ぶりだというのにいつもの素っ気ない挨拶を交わし、波音は明るい店内で西野と向かい合って座った。 四角いテーブルに赤い織物のテーブルクロス。その上には書きかけの楽譜が散らばされており、西野の頼んだコーヒーが隅に置かれていた。 彼自身はやはりいつものように真っ黒なジャケット。椅子の背に掛けたコートも黒。ズボンも黒。細長い手足は蜘蛛のようだ。髪が少し伸びて鬱陶しい。 「お腹空いた。ラビオリ食べるわ」 メニューを見るなり決めた波音に、西野が「相変わらずだな」と苦笑いする。 オーダーを済ませて落ち着いた波音は、西野がテーブルの上を片す様子を見つめていた。 「よく来てくれたな。今回ばかりは俺一人でスバルを支える自信がない」 「…………」 不穏な色を帯びた言葉に、波音はジロリと下から西野を睨んだ。 「どういうことなの? ちゃんと説明してよ」 「俺も本人から聞いたわけじゃない。アイツのマネージャーから聞いたんだ」 西野は鼻から不服そうに息を吐く。姿勢悪く背を曲げ、下顎を出してコーヒーを啜った。
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