神さまのいない世界

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明るいソナタが部屋を満たす。 波音が曲を弾くと、前向きで強い性格が音符に乗る。沖島は強張った体を脱力させ、今しがた自分で否定した「音楽」に身を委ねた。 「32小節目、弾き間違えたよ。あっ、そこフォルテじゃないから」 余計な指摘。波音は演奏を止めることなく口を尖らせた。 「うるっさいわね! 分かってる!」 「イライラを音で表さないで。ハノンちゃん、怖い~」 「もう! 昴のバカ!」 波音はピアノの椅子から猛然と立ち上がり、大股で歩いてきてクッションで沖島を叩く。沖島は笑いながら両手で頭を覆った。 「ごめんなさい! 許してください」 「あっ!」 うっかり手を滑らせ、波音の手からクッションが落ちる。 「隙あり」 「きゃあっ」 沖島がぎゅっと波音の腰を抱き寄せ、バランスを崩した波音は思わず彼の上に倒れこんだ。相手を潰さないように咄嗟に腕を立てる。 吹き込んだ風に二人の髪の毛が揺れた。 波音が閉じた目を恐る恐る開くと、そこには沖島の哀しい笑顔。 「ありがと。波音」 「……昴?」 波音が呟くと同時に玄関の扉が開く。 「ピザ買ってきたけど。お前ら何やってんの」 静まり返った部屋の中。西野が白い目で二人を見た。
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