届いたチケット

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その週末。 ヴロツワフから深夜バスに乗り、波音はベルリンを目指す。 車内に乗り込んで乾燥した冷たい風から逃れると、ホッと息を吐きシートに背を預けた。バスの中は空いている。四人座席に自分一人で悠々と細長い足を伸ばした。 波音は小さなショルダーバッグからスマホを取り出し、にんまりとした。画面には、初めて沖島と西野がヴロツワフの家に遊びにきた時に三人で撮った写真。 沖島とはよくメールしていたが、決してマメでない彼は忙しくなるとそれも疎かになる。最初の頃は不満を募らせていた波音だったが、最近では慣れてしまっていた。それに沖島は忙しい合間を縫って月に一度は会いにきてくれる。 「コンツェルトハウスでリサイタルなんて。すごい」 負けないように頑張らなくちゃ、と波音は意気込む。彼女もまたヨーロッパのピアノコンクールを制覇中だ。 寝静まった街に遠慮するかのようにエンジン音が鳴り、振動で車体が細かく揺れた。 バスが静かに発車する。 波音は先日の西野の言葉が脳裏によぎり、沖島との最後のメールのやり取りの画面を見つめた。それからずっと遡って読む。 文面はいつも明るく、読むだけで笑顔になれる内容だった。 「大好きだよ」「会いたいよー」と犬系男子の愛くるしさを遺憾なく発揮しているメッセージと大げさなスタンプ。 スマホの画面に仏頂面を照らされながら、波音は溜め息を()いた。 沖島は最近までずっと楽しくやっていたはずだ。
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