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第1楽章「出来レース」
同じピアノ教室に通う、みかちゃんは、一度聴いた曲を一回で完璧に弾ける。そして、一度覚えたら、ずっと忘れない。
でも、みかちゃんは、ぼくたちが普通にできることが普通にできない。
みかちゃんが一度聴いて弾けるようになった曲を、ぼくはまだ弾くことができない。
毎日毎日一生懸命練習しているのに。
ぼくがその曲を弾けるようになった頃、みかちゃんは、ピアノの先生が弾くような難しい曲を、まるで呼吸をすることと同じような感覚で弾いていた。もう、一生かけても追い付くことはできないのだと、ぼくは気付いてしまった。
みんなが普通にできることができないけど、みんなが普通にできないことができる、みかちゃん。
みんなが普通にできることはできるけど、みかちゃんができることができない、ぼく。
みんなができることなんかできたって、誰にも褒めてもらえないじゃないか!
ぼくは、いちばんになりたいんだ!
大人たちは、みかちゃんは可哀想な子だから優しくしてあげなさいと言うけど、ぼくは、みかちゃんのことを、ちっとも可愛そうだなんて思わない。
だって、ぼくは、たとえ毎日24時間練習したって、みかちゃんに勝つことはできないのだから!
こんなの“出来レース”じゃないか。
ぼくは、みかちゃんを憎らしく思った。
レッスンの帰り道に、ぼくは、偶然みかちゃんとお揃いになってしまったレッスンバッグを捨てた。
同じレッスンバッグを持っていたって、ピアノの才能は大違いだ。
ぼくは、みかちゃんとお揃いのレッスンバッグを持っていることで、みじめな気分になってしまったのだ。
お母さんに、レッスンバッグを失くしてしまったと嘘を吐いて、新しいレッスンバッグを買ってもらった。
次のレッスンの時、そのことに気がついたみかちゃんは、ちょっと寂しそうな顔をした。
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