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ふくらおじさんの朝は早い。
日の出とともに仕事着に着替え、遠く離れた駅まで向かう。
吐く息は白い。
すれ違うのは新聞配達のバイクぐらいであり、単なる通勤であるにもかかわらず、孤独と無情を学ぶのである。
駅に着いたなら乗車。
席は座り放題なので、迷わず端に座る。
そして壁に寄りかかり、短い睡眠を愉しむ。
反対側に頭がもたれぬように体幹の調整は厳重に。
運悪く隣に座る女性に寄りかかったのなら侮蔑の眼差し、最悪の場合は人を呼ばれてしまうので、殊更注意を払う必要がある。
念入りに気を使い、しばし就寝。
イビキや歯軋りで騒がせてしまうのはご愛嬌というものだ。
オフィスに到着。
早く家を出た割には、出社時刻は人並みである。
それも彼の構えた巣が会社から離れすぎているせいであり、日々の涙ぐましい努力によって遅刻を防いでいるのだ。
業務開始。
ここで彼の体の特質が大いに活かされる。
例えば上司からの叱責だが、痛烈な嫌味と罵詈雑言は、見事皮下脂肪によって吸収されるのだ。
どれ程のトゲを言葉に潜ませようとも、彼の柔らかな鎧を突破するに至らない。
返答として、ふくらおじさんは定型文である謝罪の文句を並べるだけで良い。
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