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そして口を離したなら大きく息を吸う。
海底深くまで潜ったダイバーが水面から顔を覗かせた時のように。
手持ちの食料が尽きた頃、ふくらおじさんは下車する。
乗車中に暇とならないよう、食べるペース配分に気を使った結果、彼の目論見通りとなった。
まるで秤でも使用したかのような正確さだが、目分量である。
これもふくらおじさんの持つ、素晴らしい性能のひとつだと言えよう。
駅まで戻ったなら道中でホットココアを買い、家まで歩く。
熱いくらいの温もりが、彼の心を端々まで癒すようだ。
帰宅したならば、ささやかな晩餐が待っている。
巣に潜む仲間たちは既に餌を食べ終えており、その頃には団欒の最中だ。
餌場は団欒の場から離れた場所にあるので、楽しげなさえずりを耳にしながらの食事となる。
大盛りご飯に生姜焼き、豚汁と焼き魚、そしてデザートとして巨峰一房。
それらを全て平らげるなり、ふくらおじさんは独り自室に篭る。
為すべきはパソコンで趣味の動画を眺め、ポップコーンを豪快に食べ漁る事だ。
ヘッドフォンを装着し、家族の邪魔とならないように気遣いつつ、彼の望む世界を周遊する。
そして気の向くままに寝入る。
風呂や歯磨きなどの身綺麗にする行為は、気が向き次第の対応となるのだ。
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