落ち武者狩り

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 自分で自分を納得させながら、さて、立札にはなにが書いてあるのかと凝視した。そして、ああ、と、目を天に向けたくなったのだった。  その畳の部屋は、いにしえの昔、寺が落ち武者たちをかくまった場所だという。もちろん、畳は新しいものだし、建物全体もきちんと建て直された綺麗なものだったのだが。  暗闇の夜、夜烏が鳴き、ことことと鎌や鍬を持って忍び寄る貧しい人々。その眼は獲物を捕らえる事しか考えていない。  傷ついた体を寝床に横たえる武者は、その気配に気づくことなく眠っている。物音に気付いて目を開いた時は既に刃が迫っており――。  (ああ)  わたしは目を閉じた。  なんでもない写真の中に、血みどろの手が写り込んでいるような気がしたが、そんなものは一時の幻想に過ぎないのだ。
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