落ち武者狩り

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落ち武者狩り

 山のふもとにある、この小さい町は県の中でも特異な位置づけである。田舎で閉鎖的であり、外から来たものになかなか心を開かないところがあるので、学校でも「〇〇町から来た」と言うと、ネタにされるほどだ。  しかしわたしは、この町に来たのはつい最近の事であり、父の単身赴任のため、母の実家の側に一時的に越してきたというだけなのだった。  外から来たわたしたちだけど、母がこの町で生まれ育ち、知り合いも多くいたため、それほど窮屈な思いをしなくて済んだ。それでもなにか寂しくて、休みの日などは祖母のうちに行った。優しくしてくれる祖母の側で宿題をしたり、手伝いをするして気持ちを休めるのだった。  母も、わたしを連れて行くという名目で実家で休むことができるので、何も言わなかった。  豆乳を煮る独特な臭いが漂う祖母の家の台所。  すりガラスから日差しが入り、薄暗く床を照らしていた。     
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