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「お待たせ致しました」
「ありがとう」
祭は先に飲み物としてホットのカフェラテを持ってきた。俺が食事の前と後に必ず何か飲むのを把握してるからな…多分ミルクの量も完璧だ。
飲んでみるとなんか少し前にもよく飲んでいた味がした。多分これはきっと
「もしかしてだけどこれさ…」
「夏休みに通ってたバイト先と同じものだよ。時雨くん休憩の度に飲んでたからさ」
開店の時に毎回エスプレッソを試飲しなきゃいけないんだけども、苦くて苦くて仕方が無い中でこの豆だけは意外と飲めたやつだ。美味しいしなんだか懐かしい気持ちになる。
「ここでも結構好評なんだ」
「そっか、美味しいなやっぱり」
華やかな香りと酸味がいい感じだ。この学園に戻ってきてから売店で探してみたんだけど見つからなかったんだよな。
「ありがとう」
「ふふ、どういたしまして」
祭は俺の反応に安心したのか嬉しそうに微笑んだ。
「少し他の卓の所に挨拶に行ってくるね。また来るから。ごゆっくりどうぞ」
「行ってらっしゃい」
祭は俺に一礼すると挨拶に行った。生徒会役員だもんな、俺がいるからと言って一人だけにしか目を向けないわけには行かない。周りのフラストレーションも溜めないように気を付けているんだろうな。
「こんにちは」
「伊織さん」
店内を眺めていると、女性用のウェイター服を着た伊織さんが来た。俺よりスカートの丈が長くて羨ましい。
「お綺麗ですね」
「僕を口説いても意味が無いですよ」
伊織さんは口元に手を添えて控えめに微笑んだ。その姿はthe大和撫子って感じだ。正直見ていると勝てる気がしない。
「沢山さんも出るんですね、女装コンテスト」
「絶対勝ちますからね俺」
「やけに自信あり気ですね」
さっきも言ったが俺には勝つ為の奥の手がある。だからこそ負けられないんだ、俺は食への執着は割と強い方だし。
「この学園には姫って呼ばれている方もいますから、優勝候補は僕だけじゃないですよ」
「もしかして食堂のVIP席にいた…」
「VIP席…?その言い方いいですね。僕も使おう。恐らく彼で合ってますよ」
この学園に来た初日にチラッと見た人の事なんだろうな。確かにあの人はかなり手強そうだ。
「先ずは学年別の予選、お互いに突破しましょうね」
「はい」
ごゆっくりどうぞ、と言って伊織さんは持ち場に戻って行った。俺も頑張るぞ…悲しくも女装コンテストだけど。
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