XmasSS

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「あー、さっむ」  雪がしんしんと降り積もる聖夜、やっと仕事が終わった俺はクリスマス商法に踊らされている感をひしひしと感じながら帰路に着いていた。なんとなく腕時計を見ると、まもなく日付が変わる前の時間を指している。  祭はどうせ2時くらいにならないと寝ないし、待ってるんだろうな俺の事。そう思うと外の気温が寒くても少しだけ暖かい気持ちになる。早く帰りたい、俺は転ばないように気を付けながら祭の待つ自分達の家に向かって走った。 「ただいま」 「おかえり、時雨くん」  玄関を開けると案の定祭がタオルを持って玄関の廊下で俺を待っていた。 「もう今日から大学は冬休み?」 「うん、時雨くんは年末年始も仕事でしょ?」  高校卒業までにギリギリ180cmを超えた祭が少しかがみ気味に俺の服を拭いてくれている。俺は結局卒業までに0.5mmしか伸びてくれなかったから身長差が開いてしまっていて、なんだか悔しい気分になる。 「いいな学生は」 「でも冬休みが終わったら期末試験だよ、全然暇じゃない。それよりもケーキ食べよ、作ってみたんだ」  一通り身体を拭き終わった俺は祭の後に続いて靴を脱いで家の中に入った。 「歪…」 「うるさい。味は保証するから」  リビングに入ると、テーブルの上にはなんとも言えない形のケーキが置かれている。祭が食器類の準備をしてくれているので、俺はとりあえずテーブルに座った。程なくして戻ってきた祭が対面に座ってフォークを持つと、一口大のケーキをホールから掬った。 「はい、あーん」 「ん」  うん、確かに味は美味しい。何をどうしたらこんな形になるのかは分からないけど。普段は簡単な物くらいしか作らないあの祭が頑張って慣れない作業をして作ってくれたんだなって思うと愛しく思える。 「美味しい?」 「美味しいよ。ありがとう、ケーキ難しかったでしょ」 「想像してたよりずっと。特に見た目」  少しだけ不安そうに俺を見つめていた祭に向かって微笑むと、雪解けのように暖かい笑顔を俺に向けた。 「僕も時雨くんの作ったケーキが食べたいなー」 「繁忙期が終わったら作ってあげるから」 「うん、楽しみにしてる。でも無理はしないでね」  どんなに仕事が忙しくても帰れば愛しい恋人が家で待っていてくれて、祭の笑顔さえ見られればどんな疲れだって吹き飛んでくれる。明日の仕事も頑張ろう。
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