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「申し訳ないけど俺の案内はここまで、2階まで上がって右に曲がれば辿り着けるから」
「本当にありがとうございます…!」
「頑張って、行ってらっしゃい」
前を歩き始めた彼の背中をじっと眺める。
きっとこの子は俺達にとって陸の人間だ。この深海の街から祭を掬いあげる存在。だからこれからこの子は祭に色んな景色を教えていくんだろうな。
少し…羨ましいかもしれない。
俺達の知らない世界に向かっていく祭が。
きっと皆はこの子を軽蔑するだろう。祭の傍に居るからだけじゃなくて、外の世界を知っていて自分達の知らない世界を知っている…彼は存在だから。そしてそれを知っていく祭に戻ってきて欲しいと思ってしまうんだろうな。
彼の背中が見えなくなってから、俺は何となく奏に電話をした。
『白夜、どうかしたんですか?こんな時間に』
「ねぇ、奏がよく行くライブってどんな感じなの?」
『?とりあえず楽しいですよ。白夜も今度俺と一緒に行ってみますか?』
「うん、行く」
俺も本以外の媒体で外の世界に飛び込んで見ようかな。彼の目を見たらそう思ってしまった。
知らない事を体験するのは少し面倒で億劫だ。だけど知らないままだなんてきっと勿体ないから。
俺は校舎の窓から空を見上げた。
海の底から眺める太陽はいつも歪んで見えるけれど、今日はなんだか眩しく見えた。
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