日常の中で君を眺めた

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side.一宮祭 雨上がりに一気に咲く花がある。 ー彼岸花ー これは僕の誕生花だ。 そして僕の名前の由来でもある。 どういう感覚なのか分からないんだけど、よくお祖母様は彼岸花の事を地面に咲く花火だと言っていた。そして花火はお祭りが行われる時に打ち上げれる物だから。そんな理由で祭って名前を付けられた。 僕は昔からこの名前が嫌いだ。何故なら、まるで自分が愛玩動物になったみたいな気分になってしまうから。初等部の頃の授業で皆で名前の由来について親に聞いてみようって宿題が出た事がある。周りはきちんとした意味を込められて付けられているのに、僕だけはそんな理由で。当然胸を張って発表出来るわけも無くて、肩身が狭くて辛い気持ちになったのを覚えている。 「祭って良い名前だよな。呼びやすくてお洒落だし。一宮って苗字にも凄く似合ってる。良く考えられた名前だと思う」 「そうかな…僕はあまり好きじゃない」 「俺は好きだな、祭って響き。漢字も」 共同スペースのソファに座って何となく開いていたノートを閉じると、隣に座っていた時雨くんが、表紙に書かれた僕の名前に目を向けながら言ってきた。 「俺なんて土砂降りの日に生まれてさ。なんとなく雨って字が入っててカッコイイ名前がこれだったから。だぞ。生まれた月とか意味とか何も関係ない」 「僕も同じようなもんだよ。良いじゃん時雨って名前。ご両親の言う通り格好良い」 げんなりしながら時雨くんは言っている。なんだ、こういうの僕だけじゃなかったのか。なんとなく面白くて笑ってしまう。 「名前負けしてるって何度言われた事か…」 「そう?似合ってるのに」 「何故か俺雨男だし」 「良いね。名は体を表すって言うし。雨は好き」 以前にも時雨くんに話したけれど雨は好きだ。全然いいじゃないか。 「祭って俺の事は基本的に何処までも肯定してくれるじゃん…まぁそれは嬉しいけど。祭は晴男だって龍一先輩が言ってたな。だからここぞという時にお願いして連れて行くって」 「うわ。そう言われると都合がいい感じがして嫌だな。まぁお返しはちゃんと貰うからいいけど」 龍一のくせに生意気だな。時雨くんは眠くなってきたのか小さく欠伸をするとすっと立ち上がって背を向けた。 「俺もう寝る。おやすみ、祭」 「うん、おやすみ」 自分の部屋へと向かっていく時雨くんを見届けてから僕はまたノートを広げた。
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