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「はぁー…」
部屋に戻ってから溜息が止まらない。
一体これで何回目だろうか。
「どうしたの時雨くん」
「俺、なんか女装コンテスト出るらしいんだよね」
「へぇ、頑張れ」
少しは反対してくれるかなって思って祭に話してみたけど、相変わらずこの手の話題には興味を持つ事は無いらしい。祭は特にこっちを見る事も無くソファにある猫のクッションと戯れている。
「何着せられるんだろう」
「露出が多いのはダメだからね」
助けてはくれない癖に文句は言うのか、このやろう。俺は憎々しげに祭に目を向けた。
そう、今の一連の会話で分かる人は分かったかもしれないが、俺達の学園は今週、文化祭という大イベントを控えている。
そして入院してしまっていたせいでそこら辺の事が一切分からなかった俺は、戻ってきて早々訳が分からないまま女装コンテストのクラス代表に選ばれていた。運動会で容姿点1位だった事に味を占めたな、クラスの奴ら。
「時雨くんのクラスの出し物は…お化け屋敷だっけ」
「そうそう、女装したまま俺は受付をやらされる」
文化祭の準備に全く貢献していない俺は、当日にガッツリと働かされる予定らしい。
「祭の所は?」
「ただの喫茶店だよ。ウェイターやるみたい」
いいな、楽そうで。
運動会の時もそうだけど、祭って無難なやつばっかりやってるよな。多分、祭様に辛い仕事はさせられない…!って感じでやらされないんだろうけどさ。
「遊びに来てね、時雨くん」
「えぇ…」
祭のクラスに言ったらクラスの人達に蹴って殴って罵声を浴びせられそうで嫌なんだけど。絶対俺の事快く思ってないだろうし。多分確実に行かない。
「どうせ来ないつもりでしょ。迎えに行くから」
「…待ってる」
俺の考えている事がバレバレだったらしい。祭は笑顔のまま俺を抱き締めてきた。
「とびっきりの接客をしてあげる」
普通でいいんだけど…でも祭に接客されてみたい気持ちはあるから、楽しみかも。
「あ、2日目の一般開放日は蒼汰さんと凌太も来るから」
「わぁ、呼んだの?」
「一応」
「ふふ、楽しみだね」
祭は女装を控えてないもんな、そりゃ心置き無く楽しみになれるよな。はぁ、全くもって羨ましい。 俺はまた溜息を吐き出した。
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