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モデルのような美青年
「す、すいませんっ! 大丈夫ですかっ?」
優輔は謝りながら、慌てて立ち上がろうとしたとき、相手の容貌を目にして視線が釘付けになった。
人気モデルが雑誌から抜け出てきたような錯覚にとらわれてしまうほどのイケメンだったからだ。
「いえ。こちらこそすいません。大丈夫ですか……?」
穏やかな声で優輔に話しかけてくる美青年は、優輔と同い年くらいだろうか。
センスのいいスーツを見事に着こなし、心持ち明るめに染めた髪をサイドで自然に流している。
「…………」
学校と、モデルのようなオーラを放っている超かっこいい青年とのギャップに優輔が言葉を失くしていると、彼は先に立ち上がり、優輔に向かって手を差し伸べてきた。
「……大丈夫ですか? どこか痛めましたか?」
いつまでも、その端整な顔に視線を釘付けにしたままの優輔に、美青年は心配そうに聞いてくる。
「あっ、い、いえ。大丈夫です。すいません」
優輔はようやく我に返り、そう返事をすると、差し出された手をとっさに握った。
彼はそのスリムな体に似合わない力強さで、優輔を立ち上がらせてくれ、
「……もしかして、新任の教師の方ですか?」
そんなふうに聞いてきた。
「あっ、はい。そうです。呉林優輔と言います」
「やっぱり。初めまして。化学教師の藤谷涼(ふじたにりょう)です。理事長から新任の教師の方が今日来られるって聞いてましたので……」
藤谷の言葉に、優輔は自分が理事長室へと行こうとしていたことをやっと思いだした。
「す、すいません。あの、理事長室ってどこでしょうか?」
「理事長室なら、反対側です。ご案内します」
「あ、ありがとうございます」
どこまでも端整な笑顔で優しく接してくれる藤谷とともに歩きながら、
良かった……。こんなにいい人が先輩教師にいてくれて。
優輔は心から安堵していた。
だが、藤谷涼との出会いは、優輔の人生を百八十度変えてしまうものであったのだ――。
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