ロックオン

2/2

126人が本棚に入れています
本棚に追加
/131ページ
「……谷、藤谷!」  隣から声をかけられて、藤谷は我に返った。  見るといつの間にか隣の席に、新井努(あらいつとむ)が戻って来ていた。  新井は、藤谷の大学時代の先輩であり、松が丘高校の教師としても先輩である。 「あれ? 新井さん、いつの間に帰って来てたんですか?」  藤谷が三つ年上の先輩教師にそう返すと、新井は温厚そうな顔に苦笑を浮かべる。 「いつって、ご挨拶だな、藤谷。さっきからずっと呼んでたんだぞ。どうしたんだ? ボーッとして」 「あー、すいません。オレ今ちょっと夢見心地なんで……」 「あ? なんでだ? 宝くじで一等でも当たったか? それならオレにも分けろよ」 「そんなんじゃありませんよ。……オレ、生まれて初めて運命の出会いってやつ、しちゃったみたいなんですよね」 「運命の出会い? おまえが?」  新井が半笑いの声を出した。 「ふーん。おまえの口からそんな言葉が出るくらいだから、よっぽどイイ女と会ったんだな。なに女優とでも出会ったか?」 「いえ、今日から来る新任の教師です。さっきそこで出会って」 「はあ? おまえいつも職場恋愛だけは嫌だって言ってるくせに、新任の女教師が運命の相手かよ!?」  呆れる新井に、藤谷はかぶりを振った。 「違いますよ、新井さん」 「は?」 「オレの運命の出会いの相手は、男です」
/131ページ

最初のコメントを投稿しよう!

126人が本棚に入れています
本棚に追加