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「……谷、藤谷!」
隣から声をかけられて、藤谷は我に返った。
見るといつの間にか隣の席に、新井努(あらいつとむ)が戻って来ていた。
新井は、藤谷の大学時代の先輩であり、松が丘高校の教師としても先輩である。
「あれ? 新井さん、いつの間に帰って来てたんですか?」
藤谷が三つ年上の先輩教師にそう返すと、新井は温厚そうな顔に苦笑を浮かべる。
「いつって、ご挨拶だな、藤谷。さっきからずっと呼んでたんだぞ。どうしたんだ? ボーッとして」
「あー、すいません。オレ今ちょっと夢見心地なんで……」
「あ? なんでだ? 宝くじで一等でも当たったか? それならオレにも分けろよ」
「そんなんじゃありませんよ。……オレ、生まれて初めて運命の出会いってやつ、しちゃったみたいなんですよね」
「運命の出会い? おまえが?」
新井が半笑いの声を出した。
「ふーん。おまえの口からそんな言葉が出るくらいだから、よっぽどイイ女と会ったんだな。なに女優とでも出会ったか?」
「いえ、今日から来る新任の教師です。さっきそこで出会って」
「はあ? おまえいつも職場恋愛だけは嫌だって言ってるくせに、新任の女教師が運命の相手かよ!?」
呆れる新井に、藤谷はかぶりを振った。
「違いますよ、新井さん」
「は?」
「オレの運命の出会いの相手は、男です」
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