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自分は巫女としてきちんと役目を果たせているのか。自分は彼女たちに比べて劣ってはいなかったかずっと考え続けて、それでも今代の巫女は自分であると、己を奮い立たせ、尽くしてきたつもりだ。
けれど、すべてを知った今、
(明日から「希望というぬくもり」を夢見て毎夜眠るのだろう……)
自分とは全く逆に。
自分が死んでから新しい巫女が来るまで、彼は今まで抱えていた怯えを手放し、新しい世界を1匹で生きられるのであれば、それは喜ばしいことのようにも思えるけれど。
それでも。
ドラゴンに包まれるように毎夜眠るそのふかふかの寝床で自分が死んでいくことはひどく悲しかった。
自分という存在は彼にとって大切なものであっただろう。ずっと2人で暮らしてきたのだから。
この期に及んで、自分が過ごした穏やかな65年間を否定されたようで、老女はとても悔しかった。子供のように、すべてが欲しいとは思わないけれど、それでも、老いてもなお、子供のような嫉妬にかられてしまう。
今までの巫女に。そして、自分の死後やってくる巫女に対しても。
「私の巫女」
ドラゴンは悔しさに声をにじませる。
いつも低く、威厳に満ちてなお優しさのある声であるが、最初はそれがわからず、恐れたものだ。
「どうか、泣かないでおくれ。私の巫女」
そうだ。とすぐ気づいた。彼はそれが嫌で、別れの瞬間が嫌でたまらないから、苦しかったのだと気づいた。
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