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スマホを置いて、もう一度外に目を向けたその時!
窓いっぱいに、両手を広げガラスに張り付いている私の姿があった。
「キャーーー!」
思わず叫び声をあげてしまった。
彼女は血走った眼で私を見据え、口元を歪ませる。彼女の手が触れているガラス面に、ピシピシとひびが入ってゆく。
次の瞬間、いとも簡単にガラスが弾け飛んだ。昼の事を思い出し、エレベーターのガラスがいかに丈夫なのかを逆に思い知った。
外から吹き込む風に煽られて、ふらつく私を見ながら、彼女は身軽に窓から侵入して来た。
硬い靴底のブーツで、足元のガラス片をバキバキと踏み潰して歩み寄って来る。私は必死の思いで、声を押し出そうとした。
「あ、あの!」
だが、彼女は手近にあった椅子(売り物)を片手で掴み、投げつけてきた。
飛び退けた私の目の前で、椅子は粉々になった。続けて床に伏せた状態の私にめがけて、1メートル程の高さのショーケースを倒した。
これも間一髪避けたけど、乗ってた小物達は全部吹っ飛んだ・・・とにかく話が出来る状態じゃない!
その後も逃げ回るのだが、身を寄せたテーブルはひっくり返され、下に隠れたベッドはブーツで踏み抜かれた。
逃げれば逃げる程、私の大切な家具達が破壊されてしまう!
身も心も疲れ果て、カウンターの前でへたり込む私。涙目に映る彼女の姿は、まるで獣だ。私を追い詰めた彼女は、獲物を仕留める肉食獣の様に飛びかかった。
・・・もうダメ!そう思った。しかし彼女は何故か跳ぶ瞬間に体勢を崩して、カウンター向かって左側の大きな衣装ケースに飛び込んだ。更に、その2メートルある衣装ケースが倒れ、下敷きになった様に見えた。
恐る恐る覗き込もうとした私は、思わず息を飲む。
淡い光の中に人影が浮かぶ、その瞳が厳しい眼差しを私に向ける。
私の直ぐ目の前に、私と同じ顔の彼女が現れた。
私の体は怯えてガタガタと震える。それに対し、彼女はまるで平然としている。由佳の言っていた『カッコいい服』宏明の言う『怖い顔』・・・間違い無い、この人の事だ。
私の・・・
「貴女は、貴女は、私を恨んでいるよね?殺したいんだよね?それはそうよね。貴女を犠牲にして、のうのうと・・・私だけが幸せに・・・なって」
彼女は黙っている。私はなお、震える声で続けた。
「ダメだよね私。幸せになんかなっちゃいけないよね?そんな資格無いよね?私、どうしたらいい?どうやって、貴女に償ったらいい?」
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