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「……うん。でも、ここが良かったんだ。……初めて会った場所だから」
ーー仕事で失敗してやけ酒してた俺を、見知らぬ人が介抱してくれた……らしい。俺は全く記憶になくて、後日、彼女が話しかけてくれたときには随分と失礼な対応をした気がする。
きっかけはそんな感じ。話してみると趣味も気も合って、気づけば一番の友達になっていた。そして、その先に進むのも、まるで随分前から決まっていたかのように、自然なことだった。
こうして考えると、けっこう時間が掛かったんだなぁとしみじみと思う。それは彼女も同じらしく、目を閉じて思いを馳せながら微笑んでいる。
「……ほんとバカ。いつも間違えてばっかり。このことも一生ネタにして、バカにするからね」
「……甘んじて受け入れる所存です」
震える声音はもう二度と出させないと密かに誓う。
パッと勢いよく上げられた顔は思ったよりも近くて、目元には涙が滲んでいる。こんな顔も、もう二度とさせるもんか。
「あんたが間違えたらさ、何回でも、私がちゃんと正してあげる……だから…………幸せにしてね」
耳元で囁かれた熱い息が強張った体に染み渡り、そっと重ねられた手のぬくもりに、心の底からホッとした。
大将が無言で差し出してくれたおでんの盛り合わせに餃子巻きは入っていなかったけれど、それは今度、別の場所で二人で食べられたら良いなと思う。
……改めて口にした具材はどれも、さっきよりもしょっぱかった。
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