寒くなると恋しいよね

5/12
前へ
/12ページ
次へ
 駅について、やっと電車の扉が開く。  私は両足を開放。思いっきり駆け出した。  今の私にはそれしかない。  待ちきれなくて早めに来たつもりが大きく遅刻となってしまった。  どうしよう、すっぽかされたと思われたら。  もう会ってもらえなかったら。  ホームの階段を一気に駆け上り、二階の改札を出ると、駅の出入り口に一目散。  そして、駅のロータリーへの階段を駆け下りる。  こんなに速く足が動くのかってくらいに。  しかし、それは私の能力を超えていたようで、 「あっ、やば、足が」  足が縺(もつ)れてしまった。 「ああ~っ」  だめっ、転ぶ~。  バッグが手から落ちる。  バッグの中のモノがいくつか飛び散って行く。  体は、既に半分前に倒れている。  ダメ、もう打つ手なし。  大けがをしてしまうかも。  彼との再会も幻と消えてしまう。  そう覚悟した瞬間。私の横顔から胸にかけて何かがぶつかった。  ぬくもりのある、私を支える力強い壁。  背中に手らしきものが回っている。そして、とってもいい香り。  私は転ばなかったみたいだ。  抱きかかえられているような・・・。  いや、間違いなく抱きかかえられている。多分若い男性に。     
/12ページ

最初のコメントを投稿しよう!

10人が本棚に入れています
本棚に追加